紙クロスとは

クロスの歴史

「クロス」とは文字どおり「布」のことを指しますが、わたしたちの業界での「クロス」は、「Book Binding Cloth」と呼ばれる書籍装幀に使われる商品のことを「クロス」と呼んでいます。 「クロス」は、19世紀初めにイギリスにて布に塗料を塗布し、革に替わる装幀素材として考案されました。「クロス」が誕生するまでの書籍の装幀は、主に牛や羊などの革を鞣して、表紙に包んでいましたが、非常に高価で作業性も悪く大変だったようです。「クロス」が考案されて以降は、大幅な作業の効率性が上がり、品質の安定・色彩の自由度などから書物には欠かせないアイテムとして瞬く間に普及しました。やがて、クロスのベースである素材は布以外にも紙が使用されるようになり、「クロス」は「布クロス」と「紙クロス」の2種類に分けられます。

日本でのクロスの歴史

日本で初めて「クロス」が製造されたのは歴史の都、京都です。 クロスの製造には、京都の伝統産業のひとつである西陣織の染色技術と密接な関係があります。明治以降、京都ではさまざまな業種の有能な人材を世界各国に派遣したり、欧米の優れた科学技術者たちを招いて新しい技術を取り入れました。クロスの世界でも同様で新しく得た技術や知識を既存の伝統技術である着物の染色技術と上手く融合させて、国産のクロスは誕生しました。私たちの創業地が京都であるのも、このような歴史を経ているからです。

紙クロスとは

私たちが、京都で100年間作り続けているのはクロスの中でも「紙クロス」と呼ばれるものです。紙クロスは細分化すると、非含浸紙・含浸紙・ビニールペーパークロスの3種類があります。私たちが100年間作り続けているのは、非含浸紙の紙クロスです。

非含浸紙とは、クラフト紙などに水性の顔料を塗布し、様々な凸凹の型(エンボス)を付けることによって、平坦な紙から布調や革調などの様々な風合いに変化させる紙加工です。

最初の工程でもある調色工程は、最も熟練度が要求される工程です。
紙クロスにとってのカラーとは、商品価値とも言える最も重要な要素になります。 水性顔料のカラーは、単一色は黒色など僅かなカラーしかなく、ほとんどの色は何色もの色を掛け合わせて作ります。季節・気温・色の配合率によって微妙に色目が変わる為、歴代の色塗り職人の長年のレシピ帳をもとに色の調色作業をしていきますが、最後の色合わせの微調整は、熟錬工の眼によって判断します。この審美眼によって、味わい深い紙クロスは生まれるのです。

調色後、地塗り工程と呼ばれる調色したカラーをロール状の原紙(クラフト紙など)に塗工する作業をします。

地塗り工程を終えた原紙は、次に表面にツヤ感と耐摩耗効果を施すツヤ塗工の工程に入ります。

その後ロール状の型でプレスするエンボス加工に入ります。
紙クロスの特徴であるエンボス模様は、雲柄や格子柄などいろいろな型があります。
紙の厚薄による癖に応じて、微妙な加工速度や温度調整が要求されるので、長年の経験と知識が必要となる作業です。

エンボス工程が終えたロール状の原紙を平判に断裁していきます。

このように調色〜色塗り〜表面ツヤ加工〜エンボス〜断裁まで仕上げる紙クロスは、非常に手間と時間がかかりますが、印刷では表現できない独特な色の深み・ぬくもりを感じる風合いをもたらします。

こうして出来た紙クロスは、出席簿の表装・書籍・ノートの背張り・和洋菓子のパッケージの貼り箱などに現在でも使用されています。